アクエリアスの猫 連載小説



ブラックマジックな引きこもりダンサー



 熱い風が吹いていた。照りつける日射しが目に痛い。もうもうと煙るマフラーがすさまじい音をたてている。
 地平線に目を向けながら、ぼくは胸の高鳴りを抑えきれない。
「ほんとうに行くのかい?」大声で言った。
「こんなところ、長くいるもんじゃない!」かれも大声で答えた。エンジン音がさらに上がった。
「そうなのか……」
「おまえも考えたほうがいい」
 走り去るかれの背中があっという間に小さくなった。不毛な大地に、まっすぐなタイヤの跡が残っている。
 考えてるさ、とつぶやくぼく。あんなやつの意見なんてどうでもいい。時代遅れのモーターバイクは地平線の彼方に消えたのだ。

「また、行ってしまったのですね?」
 人間型万能ロボットのQQ-6――この研究施設のあらゆる雑用をこなしている――が言った。爆音で気づかなかったが、いつの間にか、ぼくの斜め後ろに控えていた。
「これで何人目だ?」
「五十一人目です。でも、今回のライダーさんは三ヶ月頑張りました」
 ぼくはQQ-6の思考プログラムを少しばかりいじっていた。つまり、人間的な会話ができるように手を加えていた。そうでなければ、ロボットは〈頑張りました〉なんて言葉を吐かない。それにしても、かれは三ヶ月いたのか…… あまり仲がいいとは言えない間柄だったが、去っていった今、ほんの少しばかりの感慨がぼくを包みこんでいる。それはどこか気持ち悪くもあった。こんなときは次にやってくる人間に思いをはせたほうがいい。
「次は決まっているんだろう?」
「はい、先ほど、本部より連絡がありました。ポーラ・ドウエルさんという女性です」
 ぼくは言葉につまった。嫌な予感が胸をよぎる。いかれライダーの次は女がやってくるのか!
「め、めんどくせぇ……」
「本部の決定ですから、ライデンさん、いくらアナタがこの地に六年勤めるベテラン研究者でも、覆すことはできません」
「それ、嫌みか?」
「嫌みという要素が、わたしの中にあれば幸いですが、おそらくないのではないでしょうか?」
「……黙っていい」
「はい」
 ぼくは研究所兼居住施設に向かって歩きだした。見送りはすでに終わっていた。こんなところで、いつまでもロボットと話などしている暇はない。



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