アクエリアスの猫 | 連載小説 |
ブラックマジックな引きこもりダンサー
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「ところで、その新しい研究員はいつ来るんだ?」 ぼくは自室に引きこもっていた。座りなれたソファーにどっしりを腰を落として、コーヒーを飲むのは、実に楽しいひとときである。研究は気が向いたときにやるのが一番いい。それ以外はロボット任せにしておく。 「もうそろそろではないでしょうか?」QQ-6が無機的な声で答える。 少しばかりムッとした。もうそろそろとはどういうことだ? 「そんなあいまいな返事があるか」と言って、ぼくは口ごもる。 「……そうだった。ぼくがいじったんだった。おまえがあいまいな返事をするのは、ぼくのせいだな」 「もちろんです! あなた好みの言葉を選んでいますから」 「それはよかったな!」 ぼくは窓の外に目を向けた。デザート惑星モルコバの赤茶けた大地は痩せこけていて、小さな緑が点在するほかは何もなく、地平線の向こうまで、はっきり見える。 そのときだった。激しい震動がぼくを揺らしたのは。 ……ぼくだけではない。すべてが揺れていた。そして、震動は定期的に数秒ごとにやってきた。 「なんだ!」 「もちろん、わかりません」 「調べろ!」 「レーダーは壊れてますし、この地域は地震もめったに起こりません。へんぴな土地ですから、道路工事とも無縁でしょうし、どこをどう調べればいいのか、思案してしまいます」 「外だ! 外に出てまわりの様子を見てくるんだ!」 「それは危険かもしれません。なにしろ不測の事態です」 「だから、おまえに命令しているんだ!」 「ライデンさん、あなたが見てきてください」 「なんだと!」 震動はさらに大きくなっていた。相変わらず定期的に響いてくる。 ぼくはドアを出て、たいして長くもない廊下を走り抜けた(狭い研究所である)。エントランスまでくると、外に黒い柱のようなものが見える。かなり太い。直径が一メートル以上はありそうだ。強化ガラスのドア越しに、それを見つめながら、恐る恐るドアに近づいた。ふと気づくと震動は止んでいる。 宇宙戦争でも始まったのか、はたまた、ゲリラか、まさか、そんなわけはないだろうなぁ……。と、ぼくが崇高な思考をめぐらしていると、黒い柱のすぐそばに女が降ってきた。派手な極彩色のロングドレスを着た、長身の女――ガラス越しに、にっこりとスマイルを送ってきた。もちろん、それはぼくに向けてだろう! ここにはぼくしかいないのだ。 |
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