アクエリアスの猫 | 連載小説 |
ブラックマジックな引きこもりダンサー
3
長い金髪を揺らして女は歩く。笑みを絶やさない。そして、エントランスのガラスドアに、その手が触れた。まだぼくを見ている。うっとうしい。 いつのまにか、QQ-6がぼくのすぐ後ろにきていた。 「ポーラ・ドウエルさんです」 「な、なにぃ!」 ぼくはスットンキョウな声をあげた。もちろん意志的にやったわけではない。絶世の美女の前でバカ丸出しはごめんだ! だが、ぼくの間抜けづらは、彼女の目の中でスローモーションだったに違いない! ドアがスッと開いた。 「ずいぶんと騒々しいお出ましだな。ポーラ君。本部から連絡は受けているよ。とりあえずは、ようこそと言っておこう」せいいっぱいの冷静さでぼくは言った。〈なめてもらっては困るよ〉という心の叫び。最初が肝心なのだ。 「ぼくはライデン・キートン。この研究所の唯一の知的生命体だったが、君が来たので、それが今、二体となったことになる」 「知ってるわ。宇宙港で偶然会ったの。時代遅れのバイクに乗った男よ。声をかけてきたんだけど……。ここの研究員だったって言うので驚いたわ。やめとけ、やめとけ、って散々言われたのよ。もちろん聞き流したけど……。ああいうのってタイプじゃないの」 「実はぼくもタイプじゃなかったんだ」 ぼくは心の中で小躍りした、少しだけ。彼女は、「はぁ」と言って、うなずくと、また話し出した。 「誤解されると困るんだけど、あの男がタイプじゃないからって、あなたがタイプってわけでもないから、勘違いしないでね。あっ、そうそう、自己紹介させてもらうわ。ポーラ・ドウエルよ。よろしくネッ」 よろしくネッ、という言葉の響きが、ぼくの頭をグルグルと回り、脳をぐちゃぐちゃにする。負けた。勝ち目はない。男とは、こんなにも弱いものである。 「よろしくお願いします」とQQ-6が割り込んできた。 ぼくは慌てて手を差し出した。ぎこちなかったかもしれない。 ポーラとぼくは握手して微笑みあった。ぎらぎら光るロングドレスが目に痛いが、彼女自身はもっと強烈にぼくの心に輝いている。 「あいさつするロボットなんて、めずらしいわね。新型かしら?」 「ぼくがちょっと手を加えているからね」 自慢げに言ってはマズいと思ったが、そうなってしまった。 「へぇ、ロボット工学が専門だった?」 もちろん違う。ロボットを研究するためにこんな辺境惑星の辺鄙な土地にくる必要はない。 「生物学だ。この星の植物の研究をしている。実におもしろいデータがあって、乾燥地帯での……」 「なるほどね!」ポーラはぼくの言葉をぴしゃりとさえぎった。「細かいことまで聞いてないわ。これだから学者は嫌なの。わたしはロボット工学が専門かって訊いただけよ!」 QQ-6が笑った。そんな気がした。ぼくは、すかさず彼女に質問した。 「じゃ、君の専門はなんだい? 送られてきた資料には書かれていないようだけど」 ボーラはゆっくりとあごをひいて、ぼくを見つめた。からかうような上目づかい。 「知りたい?」 「……ああ」 「わたしはダンサーよ!」 |
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