アクエリアスの猫 連載小説



ブラックマジックな引きこもりダンサー
5



「なんなんだ? これは」
 そそり立つのは四本の支柱。ツヤのない黒色で直径はそれぞれ一メートルくらい……。
 巨大ウォーカー!
 黒い柱のように見えていたのは足だった。
 十メートルくらい上空で日射しをはね返しているボディは、ここからではよくわからないがメタリック系の色彩が施してあるようだ。
 こんなイカれたマシンを見るのは初めてだった。ぼくの常識を越えたデザイン。
 そして……。
 なぜか、後ろ足二本には足かせがついている。真っ黒な鉄球と鎖。古典漫画の囚人がよくつけているようなやつだ。
 ?? 
 引きずってきたのか? いったいなんのために! 
 ぼくは研究所の中に戻ろうとして、QQ-6と危うくぶつかりかけた。
「なんだ?」
「ポーラさんをお部屋にご案内しました、ライデンさん」
 万能ロボットは自分の管理も怠りない。ぴかぴかに磨き上げられている。至近距離で見て改めてわかる事実――。
「だから、なんだ! これを見ろ!」
 ぼくはそびえ立つ巨大ウォーカーを指差して叫んだ。
「四足歩行型のウォーカーがありますね。だから、なんですか?」
「なんですか? だと!」
「…………」
「時代遅れのバイクなんてもんじゃない。あの女はイカれている!」
「あの女とはポーラ・ドウエルさんのことをさして言っているのですか?」
「ほかに誰がいるのか!」
「そんなに興奮するのは、彼女を愛しているからですか? 今までもこの研究所には、ライデンさんが言うような、イカれた人たちがたくさんいました。が、あなたはそんなに興奮したりしなかった、と、わたしのメモリーには記憶されています」
「今さっき会ったばかりで愛しているとか、そんなことがあるわけないだろ!」
 ぼくは言い切った。
 果たして、そうだろうか? すぐさま湧いてくる疑問。生物学的にぼくは彼女にまいってしまった。それは愛? 恋なんて言葉もあるが同じと考えていいのかどうか……。
「ロボットなのに、おまえ、ちょっとオカしいぞ。いくら、ぼくが回路をいじったにしてもだ! 愛してるなんてロボットが言う言葉じゃない」
「責任転嫁はよくありませんよ、ライデンさん。わたしはあなたがいじったところ以外は、なにも変わらない血統書つきの超高性能の万能ロボットですから」
「血統書ってなんだよ……。まあ、いい。ところで、あの足かせは何だ? 考えろ!」
「ずいぶんと重そうなオモリがついてますね。引きずってきた跡が痛々しく地面を傷つけているようです」
「……で?」
「答えはポーラさんに聞くのが、一番いいでしょう。わたしには分かりません」
 ぼくはにんまりした。ロボットはやはりロボットでしかない。
「ふっ、バカめ」
「…………」
「さて、部屋に戻ってコーヒータイムだ。おまえも着いてきていいぞ。休憩、休憩」
 日射しが目に痛い。ぼくは建物の中に向かって歩き出した。どうせ、ポーラはすぐにいなくなるだろう。
 ぼくの予感はハズれるという意味ではよく当たってきたが、はたして今回はどうなるのか? 
 少しばかり胸が痛かった。



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