アクエリアスの猫 連載小説



宇宙船レインボーブルー



4.ギミドの部屋

 ギミド、フィナ、エコウルが真剣な表情でテーブルに座っている。
 タナオは給水器の水をグラスに満たし、テーブルについた。
「話を中断させてしまったかな?」
「いや、もう結論は出ている」
 ギミドが小さな目を神妙に細める。
 タナオは、フィナそしてエコウルにも目を向けた。ぐるりと一同を見回して、深呼吸――。あの目をしたときのギミドは、いつもろくなことを言わないような気がする。
 三人の目が、六つの眼球が、タナオを見つめている。
「結論なんて、なんか仰々しい言い方だね。スゴいことにでもなったみたいだ」
「えーと、おまえ、どこまで話が見えているんだっけ?」
「フィナさんが、船を話し合いに行くまでのことは知っているよ」
「そうだ。そうだ。この大事なときに畑仕事に行って、今、帰ってきたところだよな」
「うん。ちょっとトラブったような感じだったけど、よくわからないんだ。作物は無事だった。でもセキュリティロボットが傷ついていたんだ」
「耕作ロボットが心配で戻ったんじゃなかったか?」
「ああ、あれはまだダメ。もう少しいじってみないとね」
 タナオはグラスに口をつけた。冷たい水が喉を通り過ぎていくのは気持ちがよかった。単純に、うまいとか、おいしいとかいうのとは違う爽快感だ。
「実はな、タナオ。おれたちはチームになったんだ。つまり、トレーダーだよ」
「は?」
「レインボーブルーを使って貿易をやろうってことだ。がんがん稼いで船の修復に必要なもの手に入れるんだ!」
「それは、すごいね。で、チームって?」
「船にはクルーが必要だろう? キャプテン・フィナのもとに結束する血の通った優秀なメンバーという意味でチームと言ったんだ」
「ずいぶんと突飛に聞こえるけど、ぼくがいない間にいろいろと話合ったんだね」
「タナオさん?」
 フィナが気づかうようにタナオに目を向ける。
「チームで、さん付けはなしだよ」ギミドは言った。「そう決めたのは船長だし……」
「あっ、そうだった」
 フィナは口に手をあてた。
「これからはフィナさんのことをフィナ船長って呼んでくれよ、タナオ」
「フィナでいいわよ」フィナがあわてて訂正する。
「ぼくは一等航海士のエコウルだ。よろしく! タナオ」
 エコウルがテーブルの横を通って、タナオのすぐそばに来た。手を差し出して微笑む。
 タナオは反射的にエコウルの手を握った。そのかわいらしい顔は、タナオの笑みをさそった。それでも……。
「も、もしかして、ぼくもチームに入っているの?」
「当たり前じゃないか。 なんで、おまえをはずすんだ?」
「だって、ぼくには農場があるんだよ!」
 タナオは思わず大声を上げた。エコウルが驚いたように身を退いた。
「おまえ……」
 ギミドは言葉を濁した。
「ごめんなさい」
 フィナはうつむいた。
 タナオは、いつになく興奮している自分に驚いたかのように、どぎまぎしながら、それでも、大きく息を吐いて、言葉をしぼり出した。
「勝手に決められても困るんだ、そんなこと……」
「悪かったな」
 ギミドは低い声でぽつりと言った。反省しているような感じはなかった。タナオにはギミドの気持ちがよくわかっていた。
 この星にいても未来はない。たった一度の災難がこの星の運命を変えてしまった。移民星はたくさんある。誰が好きこのんで、この星に来るだろう? 銀河の離れ小島だ。そのうち誰もいなくなる。そうギミドは言いたいのだ。
 でも、この星に住んでいる人たちだって、まだ、いっぱいいるんだ! タナオを心の中で叫んでいた。
 と、突然、警報が鳴った。壁に埋め込まれたモニターが明るくなる。緊急ニュースだ。めったに起こらない出来事だった。
 息をのんで一同が画面を見つめる。
――銀河指名手配中の極悪犯がヒロンBに侵入。テリートーという殺人犯で……
「この近くきてるってことか?」
 ギミドが素っ頓狂な声を上げた。ニュースの内容は恐ろしいものだった。
「テリートーって聞いたことあるぞ! 人間の子供の肉を喰うって話だ」
「まさか、そんな……」
「ここは危険なんじゃないか」
「避難するにしても、どこへ行けばいいんだろう?」
「あのさ、おまえの農場のロボットが傷ついていたって、それじゃないのか?」
「えっ!」タナオは血の気が引いていくとは、このことだと思った。実際に自分がなってみて初めてわかる。頭がくらくらした。
「そ、そんな……」
「レインボーブルーに避難しましょう。船の中なら安心です」
「姫、ハッチが開きっぱなしで、閉められない状態にあることをお忘れなく」
「ってか、さぁ〜。そんなに危険な状況なのかな。おれら?」
 ギミドがソファーに座り直す。
「そんな銀河指名手配犯だか、なんだか知らないけど、なんで、こんな星に来たんだか……」
「逃げてきたんでしょ?」
 タナオがすかさず言った。わかり切ったことだったが、疑問を投げかけたのはギミドだ。
「ここらへんでいうと、この建物って絶好の隠れ場所だったりするかも」
「ブルー!」
 フィナは立ち上がった。
「姫!」
 エコウルも立ち上がる。
「船の中に犯人が逃げ込んだら大変なことになります」
 フィナはいてもたってもいられないという感じだった。
「ブルーが、やっつけてくれたりしないの? 壁に隠された熱線銃とか……」
「船内に入られたら、ブルーは何も出来ません。あのハッチが開いたまま、この世界に繋がっていることは、極めて危険な状況です」
「姫!」
 フィナはエコウルを抱き上げた。
「船に行きましょう。今すぐ移動するのです!」



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