アクエリアスの猫 | 連載小説 |
宇宙船レインボーブルー
9.始まりのとき ブルーが長い眠りに落ちて、センタールームは閉鎖された。 宇宙船レインボーブルーの舵取りを任されたのは、もちろんフィナだった。 クルールームに集まる乗組員は、全員が陰鬱に沈んでいるかといって、そうではない。フィナは、そのことによって元気づけられている自分に気づいていた。誰しもが活気づいていた。たとえブルーが眠っていても船は動く。この星域では超高性能な宇宙船だ。 フィナにとって、気がかりなのはタナオだった。元気そうには振る舞っているが、それでもどこか影をひきずっているような……。 そのタナオが、なにか言おうとしている。フィナは注意深くかれを見守った。 「ぼくはゾルデバランに行くのがいいと思う。あそこには貴重な鉱石がたくさんあるから、それを採掘して、ミルヴァあたりで売ったらスゴいことになる」 「いい考えだわ、タナオさん」フィナはすかさず同意した。 「おいおい、それって時間かかりすぎじゃないか? この船のデータベースじゃ細かいところまで、わからないけど……」ギミドはいった。 「ゾルデバランは治安が悪いぞ。行くならそれなりの覚悟が必要だ」 「うひゃ、そりゃダメだ! モート、あんたひとりじゃ、おれたち全員を守れないだろ」 「当たり前だ。男なら、自分の身ぐらい自分で守れ」 「フィロソリスの従者魂は、姫の行くところなら、どこへでも! ですよ」エコウルが胸を張った。 軽い笑みが場を包みこんだ。 「うーん、それなら、ジャルローの工芸品をミルヴァかアズルコで売ったらどうだろう? ああ、こういうとき」タナオはいった。「ヒロンBのデータベースにアクセスできれば、もっと正確な情報が手に入るのに」 「凄まじいことになってるからなぁ…… 実にあっけないけど」ギミドはいった。 確かにそのとおりだとフィナは思った。あまりにも簡単に惑星の治安が乱された。破壊は未だ続いている。過疎化が進みすぎてしまえば、ならず者どもの格好の餌食となるのも時間の問題なのだ。この星域にはそんな中途半端な移民政策の犠牲者になっている人々が大勢いそうだ。そう思うとフィナは胸が痛んだ。儲け話をしている人間が、ここにいるというのに、星の上では陰惨な戦いに巻き込まれて死んでいく人たちもいる。 「で、フィナさんはどう思う?」 ギミドの声が意識の向こうで聞こえた。 「ごめんなさい。聞いてなかった……」 「ぐはっ、今、みんなの意見がまとまりかけているのに!」 「あ、そうなの。それで……」 フィナは口ごもった。エコウルが横で心配げに見上げている。 「ちょっと休憩しようじゃないか。別にあわてているわけでもない」モートはいった。 「ブルー」フィナは小声でいった。誰にも聞こえないそれは、独りでに口からでた言葉だった。 「ブルー」 彼女はもう一度繰り返した。 |
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